オランダと日本との提携おいて、現地での交流は欠かすことができない。
TTADDAプロジェクトは2020年に発足し、その正式名称は、「日本とオランダの馬鈴薯に関する協力のためのデータ駆動型農業への移行」という、プロジェクトの目標を要約しています。
しかし、残念ながらプロジェクト発足から1年も経たないうちに、COVID-19の深刻な影響を受け、例えば、ロックダウン、在宅作業、コンソーシアムパートナー間のアイデアや結果を交換する唯一の手段としてテレビ会議と電子メールでのコミュニケーションしか残されていないなど、プロジェクトの遂行に大きな影響を与えることになりました。しかし、私たちは強い決意で努力を続け、プロジェクトは継続されていました。2021年、2022年にはオランダだけでなく、日本でもフィールド試験を行い、データを収集しました。今年の夏、奇跡的にオランダのTTADDAチームが日本を訪れることができ、それは本当に素晴らしいものでした。現地でのミーティング、刺激的なディスカッション、ワークショップ、素晴らしいランチ、とても美味しい夕食、そして深夜のお酒とディスカッションを楽しみました。下の写真は、北海道農業研究センター芽室研究所の畑にて、クボタの自律走行型トラクターの前にいるチームの様子で、この現地交流から得たエネルギーレベルの高さを物語っています。
TTADDA調査訪問の概要
ここでは、2022年7月17日から23日までのTTADDAチーム来日時の活動概要と収集した知見を紹介します。
私たちは東京からスタートし、NTTのトレーニングセンターを訪れました。NTTアグリテクノロジーにご用意頂いたトマトの温室での印象的なデモでは、5Gカメラネットワークが非常に高い帯域幅でライブデータ伝送を実現したことが紹介されました。次に、衛星画像データ処理、AI(人工知能)、作物成長モデル、センサーネットワークなどのテーマで、TTADDAプロジェクトでNTTがどのようにチームを組めるか、遠藤大己氏、村山卓弥氏、久住嘉和氏と議論しました。
つくば市の農研機構本部には、TTADDAのコンソーシアム(NARO、imec OnePlanet、Wageningen Research、クボタ)のほぼ全員が集まりました。さらに、オランダ大使館のDenise Lutz農業参事官、齊藤裕子農務アドバイザー、Oost NLのBelqis Askaryar代表が会議に参加しました。つくばでは、世界で最も進んだ完全自動のシードバンクを見学しました。その後、宇賀優作博士による根の表現型に関するラボツアーを含むワークショップにて、大量の植物の自動スクリーニングについて意見交換を行いました(https://rootomics.dna.affrc.go.jp/en/)。最後に、Rick van de Zedde氏が、過去3年間に建設され、2022年9月26日に正式にオープンした新しいオランダ植物エコフェノタイピングセンター(NPEC)の概要について説明しました。
続いて、北海道農業研究センター(HARC)にてプロジェクト会議が行われました。馬鈴薯の育種に詳しい片山健二博士(農研機構)から、日本における育種による収量と品質の最適化についてお話を伺いました。また、線虫、ポテトウイルスY、晩枯病、カビなどの馬鈴薯の病気に対する抵抗性についてもご説明頂きました。日本の消費者は、100年以上前に市場に導入されたテーブルポテトの品種「アイリッシュ・コブラー(男爵)」を好んでいることが、重要な見識でした。より強健な新品種が開発されていますが、日本の消費者に受け入れられるかどうかという問題に直面しています。近年、気候変動により作物の収量が不安定になりつつあるため、これは大きな懸念材料です。
農研機構の専門家は、HARCで開発されたUAV(無人航空機)データを使った作物の生育を監視する斬新で効率的な農法を紹介しました。DJI Phantom (SZ DJI Technology Co., Ltd.) と固定翼のeBee drones (AgEagle Aerial Systems Inc.) が使用され、後者は広い畑でより長い時間飛行することが可能です。オランダと日本では、火山の影響により土壌の性質が全く異なるため、馬鈴薯の栽培に関して大きな違いがあることを現地で学び、体験しました。日本の土はアンドソルと呼ばれ、火山灰が風化したもので、砕けやすく、密度が低いため、風食のリスクが大きく、貫入抵抗も小さいため、雨が降ると簡単に変形してしまいます。その下には粘土層があり、水の通りを止めています。基本的には酸性土壌で、ミミズが全くおらず、土壌生物はあまり存在していません。
負荷の大きい圃場作業は、完全自律走行のクボタ製トラクター(写真)が行っています。このトラクターは、前方に2つの3Dライダーセンサー、周囲を見渡す4つのRGBカメラを搭載し、ABライン走行、圃場でのスマートターンを自律的に実行することができます。モデリングはスマートファーミングクラウドアプリケーション「WAGRI」で行われています。Koen van Boheemen氏はオランダのスマート農業ツールFarmMapsを、Marcel Zevenbergen氏は新しい研究センターであるimec OnePlanetの概要を説明しました。
その後、TTADDAプロジェクトで策定された研究課題について、各プロジェクトチームが集まり、ブレインストームや集中したディスカッションが活発化に行われました。
- Gerrit PolderとBart van Marrewijk(WUR)は、土屋史記とNjane Stephen Njehia(農研機構)と共にオランダと日本で行った実験に基づき、ドローンデータ処理について議論しました。
- Joseph Peller 氏(WUR)とMarcel Zevenbergen氏 (imec OnePlanet) は、電気インピーダンス・トモグラフィーによって地下の馬鈴薯塊の存在を検出し、3Dで再構成できる「バケツ」センサーを紹介し、農研機構の同僚と議論しました。
- 一方、Bernardo Meastrini氏(WUR)は、作物成長モデルが、例えば肥料に関するアドバイスや予想収穫量など、日本の農家を支援するためには、どのような要件を満たす必要があるかについて検討しました。
- また、Koen van Boheemen氏(WUR)は、オランダのスマート農業プラットフォームFarmMaps(旧Akkerweb)と日本のプラットフォームWAGRIとのデータ交換を可能にする方法と、APIの詳細について合意するために必要な適応について議論しました。
翌日は、北海道の大規模で近代的な農場農事組合法人笹川北斗農場を訪問し、沼倉岳史農場長からアグリノート(www.agri-note.jp)などの、データ駆動型ツールを使って、予定された行動を登録する方法について説明を受けました。沼倉氏は、132ヘクタールの農場を2人の従業員と10人の季節労働者で運営しています。甜菜、馬鈴薯、牧草を栽培し、牛の生育と組み合わせています。オランダ人にとって、日本の農家がどのように雪と向き合っているかを知ることは、とても興味深いことでした。雪は、トラクターの後ろのラックに連結された車のタイヤで、土の中の冷たさを素早く取り除くために平らにされています。沼倉氏は、日本の消費者の高い要求に応えるためには品質が重要である一方、材料や飼料の価格が急速に上昇しているため、将来が心配だと話してくれました。そして、同地域での労働力不足が切実な問題であるとも教えてくれました。
次に訪れたのはカルビーポテト社の倉庫で、森氏から倉庫の全容を説明してもらいました。広い倉庫内では、ポテトの箱が重なり合い、従業員がその周りのゴツゴツとしたカゴの中を歩かなければならないことに驚かされました。その理由は、地震が起きたときに、箱が従業員の上に落ちてくるのを防ぐためとのことでした。
午後は、2019年から稼働しているJA鹿追町(ja-shikaoi.com)の大規模な選別施設と最新鋭の貯蔵施設に足を運びました。オランダの設備が種芋(Mooij Agro)の大型貯蔵室で使用され、メインホールでは日本企業のシブヤ精機(shibuya-sss.co.jp)の選別システムの実演が行われました。この大型選別ラインは、たった一人で操作されていました。10台のベルトコンベアが並列に並び、1秒間に5個の塊茎を選別し、RGB、NIR(近赤外線)、SWIR(短波赤外線)カメラがそれぞれの塊茎を検査します。そうか病の検出には、AIアルゴリズムが導入されていました。
この1週間の現地での交流は、TTADDAパートナー間の交流を後押ししました。今後数ヶ月、そしてプロジェクトの最終年度には、オランダと日本のパートナーの強固なネットワークを構築し、日本同様、オランダでもデータ駆動型馬鈴薯生産システムの生産性を高めるために、ハイテク主導の循環型農業への移行を継続して取り組めるよう努力していきたいと考えています。
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